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2022/06/21

東京大学名誉教授 畑村洋太郎
自らの正解導く思考法を
 価値・想定外・時間軸で考える
 実行、検証を繰り返す中にこそ

福島第一原発事故をはじめ新型コロナウイルス感染症の流行拡大など、さまざまな事故、災害に見舞われるなか、希望を見いだせずにいる日本社会。
5月発刊の『新 失敗学』(講談社)では、20年以上にわたり失敗学を提唱してきた畑村洋太郎・東京大学名誉教授が、こうした現状の解決の糸口を探っている。
失敗学から今、何を学ぶことができるのか。畑村名誉教授に聞いた。

日本の低迷の根本原因

 これまでさまざまな場で失敗学について語り、関係者らと議論を重ねてきました。こうした活動を通し、失敗から学ぶことの大切さが少しずつ社会に広がっていると感じています。失敗は避けて通りたいけれど、人が生きる限り、失敗は付いて回るものであり、それが大切な刺激になることも多い。失敗から学び、成長の糧にしないのは、もったいないと考える人も増えています。
 さらに失敗学は創造的な思考に向かっているのではないかと考えています。過ちを繰り返さないための失敗学ではなく、未来を創造するための失敗学です。
 一方、日本の産業の長い低迷の根本原因は、私たちがこれまで当たり前としてきた考え方から抜け出せないところにあると感じています。それは自分で考え行動しなくても、教科書等にある正解に従っていれば大丈夫という考え方です。
 その一例が2011年に発生した福島第一原発事故です。同原発では津波で非常用発電機が使えなくなり、重大事故につながりました。非常用発電機は地下に設置されていましたが、なぜ津波の影響を受けやすい地下にあったのでしょうか。
 それは米国から原発の技術が持ち込まれた際、「大事なものは地下に置く」という形だけの知識が伝わっていたためだと推測しています。米国の原発にとっての脅威は竜巻であり、それには重要な設備は地下に置くことが有効だったのです。
 「原発先進国の“教科書”にある正解だから大丈夫」という考え方から抜け出せず、日本で考えなければならなかった津波の脅威に目を向けられなかったのです。こうしたことから、『新 失敗学』では「自分で考えて実行し、その結果を検証する」というサイクルを中心軸として、自らの正解を導いていく思考法について論じています。

仮説を立てるための要点

「自分で考えて実行し、その結果を検証する」――そのための第一歩は、「自分で考える」ことです。それは言い換えると、「仮説を立てる」ということです。拙著では、この仮説を立てるために、「価値について考える」「想定外を考える」「時間軸を入れて考える」という三つのポイントを挙げています。それは東日本大震災、新型コロナウイルス感染症の流行拡大という経験と深く結び付いています。
 2020年以降、感染症が流行拡大し、多くの会議がリモートでの開催になりました。遠隔地からの参加も可能になるなど、リモートならではの利便性も感じましたが、リアルに顔を合わせ議論するなか共有されていた理解が切り捨てられていることも感じました。
 情報が頭の中に着床するには階層性があり、リモートでは言葉による情報のやりとりはできても、それは表層にとどまり、十分に着床しません。リアルで交わされる会話には、言葉のやりとりだけでは測れない情報が詰まっていることを改めて知りました。感染症の拡大はものごとの価値を考え直す機会になっていたと思います。仮説を立てる上で、この価値という視点は不可欠であると考えます。
 「想定外を考える」ことも大切です。実は日本では東日本大震災以前、想定外は「考えてはいけない」ものとされてきました。ところが東日本大震災では、想定を超える津波によって甚大な被害が生じ、それは通用しなくなりました。
 とはいえ、あらかじめ取り込むのが難しいのが想定外の問題です。そこで私が考えるのが、「想定外」は「その他」として記述し、引き出しを用意するということです。事前に対策がとれなくても、引き出しをつくった記憶があれば、そうした事態が起きたときも、あわてずそれに向かえるのです。
 津波被災地に何度か足を運び、お話を聞きましたが、助かった方の中には津波が防潮堤を越えるかもしれないから避難経路も調べておこうと考えていた方が多かったことを知りました。こうした事実も「想定外を考える」ことの重要性を物語っています。

 

知識・情報を得る「三現」

 「その他」という引き出しをつくり、そこに魂を吹き込んでおくことは、もう一つのポイントである「時間軸を入れて考える」ことにもつながります。「その他」に分類し記述すれば、想定外を考えることで伝達が生まれるからです。その時には追い付かず諦めるしかなかったけれど、時間をおいて考えることで、問題に対処できることもあるでしょう。時間軸を入れることで、仮説の精度はより高くなると考えています。
 そして三つのポイントとともに、仮説を立てるために必要な知識・情報を取り入れる際に私が大切にしているのは「三現」です。「現地に行く」「現物にふれる」「現場にいる人から聞き、議論する」を表した私の造語ですが、三現を通じて、質の高い立体的な仮説を立てることができると考えています。
 仮説を立てて実行する。そこでは当然失敗も経験しますが、その繰り返しのなかにしか、低迷する今の時代を脱し、未来を創造する道はないと思います。

はたむら・ようたろう 1941年、東京都生まれ。

東京大学教授などを経て現職。

工学博士。NPO法人失敗学会理事長。

専門は創造的設計論、知能化加工学。

東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会委員長などを務める。

著書に『失敗学のすすめ』『創造学のすすめ』『未曾有と想定外』などがある。

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