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〈オピニオン〉 ウクライナ危機 揺らぐ国際秩序

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〈オピニオン〉 ウクライナ危機 揺らぐ国際秩序

2022/06/20

連携強化で「力による現状変更」に対抗を
東京大学大学院 遠藤乾教授

2月24日に始まった「ウクライナ危機」を巡り、国連の機能不全が指摘されています。
第2次世界大戦の後、国際社会が築き上げてきた、国連を中心とする世界秩序は、これからどうなるのか。
国際政治学者の遠藤乾・東京大学大学院教授に、国際情勢の展望と併せて語ってもらいました。(聞き手=光澤昭義記者)

国連安保理は機能せず

 ――ウクライナ危機によって、国連憲章を基礎とする国際秩序が揺らいでいるといわれます。どのような問題が浮き彫りになったのですか。
  
 遠藤乾教授 国際社会は長い時間をかけ、戦争を違法化し、力による現状変更を封じ込めようとしてきました。武力を行使する場合にも、戦時国際法をはじめとするルールを作り上げ、戦争の当事国には抑制的であることが求められた。しかし、ロシアによるウクライナ侵略はこうした国際社会で積み上げられてきたルールや原則を侮蔑(ぶべつ)し、破壊する行為であり、決して許されてはなりません。
  
 ――国連の安全保障理事会は、拒否権をもつロシアに対し、有効な措置(そち)を講じることができず、国連の集団安全保障システムは全く機能しませんでした。
  
 遠藤 米英仏中ロの安保理常任理事国が拒否権を発動すれば、国連の集団安全保障システムは作動しない仕組みになっています。5大国のうち一つでも反対すると、国連は動けない。そうした構造的な欠陥が露呈したのは、想定通りの結果です。
 国連が不要だというのではありません。これまでにも、湾岸戦争(1991年)、イラク戦争(2003年)など、さまざまな軍事衝突や衝突がありましたが、国連は、武力行使に正当性を付与したり、あるいは逆に疑義をつけたりする回路として、国際秩序の維持に一定の機能を果たしてきたのです。
  
 「公助・共助・自助」に例えれば、ウクライナ情勢を理解しやすいでしょう。常任理事国が蛮行を犯した場合、国連という公助は働かない。しかし、ウクライナは多くの国々の支持・支援を受けながら(共助)、自国の防衛に努め(自助)、なんとか持ちこたえている。国際秩序の根幹は「独立・主権・領土の一体性」を守ることです。公助がなくとも、共助と自助で秩序を回復しようとする動きが続いているといえます。
  
 ――ロシアとウクライナの戦争は長期化するといわれます。
  
 遠藤 ええ。停戦の合意は容易ではありません。
  
 歴史を参照すると、1938年の「ミュンヘン協定」では、ドイツ系住民が多数を占めるチェコのズデーテン地方を巡り、その領有権を主張するドイツのヒトラー総統に対し、英国とフランスの首脳がさらなる領土を要求しないことを条件に認めました(協定は守られず、ナチスドイツは増長し、第2次世界大戦を招いた)。こうした宥和(ゆうわ)政策は、2014年、クリミア半島を既に併合されているウクライナだけでなく、世界にとって受け入れ困難な選択です。
  
 その一方、1919年、第1次世界大戦における連合国と敗戦国との間で締結された「ベルサイユ条約」では、ドイツに厳しい懲罰(ちょうばつ)が科されました。しかし、その後、ドイツ国民の不満が募り、ヒトラー台頭の要因になりました。
 最大の懸念は、ロシアが核兵器保有国であることです。これは、ナチスドイツとは大きく異なります。ロシアを追い詰め過ぎると、核使用の危険が高まるだけに慎重な判断を迫られるでしょう。
  
 ロシアとウクライナの停戦協定が「ミュンヘン型」「ベルサイユ型」のいずれになるか――それによって国際秩序の展望も見えてくるだろうと考えます。

 

2月28日、ウクライナ情勢を巡り開催された国連の安全保障理事会(米ニューヨークで)=AFP時事

軍縮のビジョンが必要

 ――今後の国際情勢については、どう見ていますか。
  
 遠藤 1975年、北欧のフィンランド・ヘルシンキで開催された全欧安全保障協力会議で「国境の平和的変更の原則」が合意されました。ロシアはウクライナ侵略により、この原則を蔑(ないがし)ろにしてしまった。
 ロシアは今、ウクライナからの強力な抵抗を受けています。また、欧米各国、日本からは、さまざまな厳しい経済制裁を科されている。同国の主要銀行はSWIFT(スウィフト)(国際銀行間通信協会が運営する決済網)から排除され、中央銀行の資産は凍結されました。こうした動きを中国はよく見ており、ウクライナ侵略のような力による現状変更が東アジアで起きる確率はそう高くないと考えられますが、台湾を巡る現状を力で変更する意志をうかがわせる以上、警戒を緩(ゆる)めることができません。この対立は構造的であり、長期化すると想定されます。
  
 ――法の支配、自由、民主主義という普遍的な価値が崩されつつあると危惧(きぐ)されています。
  
 遠藤 規範や原則は大事であり、それらが踏みにじられてしまうと、力には力で対抗するしかないという機運が高まります。軍備・同盟強化の趨勢(すうせい)は今、不可避ではありますが、力に力で対抗しようとすると、相手と同じになってしまいかねません。気が付けば、戦前の日本のような軍国主義的な風潮が社会を覆(おお)う恐れもある。自由、民主、法の支配という価値を尊重しようとする強い意志が一層重要となるのです。
  
 力の行使をする場合でも、あくまで法の支配や民主、自由のために使うという目的限定性が問われなければなりません。仮に力の行使・蓄積(ちくせき)で対抗するために軍拡政策を進めるならば、同時に、例えば1980年代初頭の欧州におけるNATO(北大西洋条約機構)の二重決定のように、それを将来的に反転させる軍縮のビジョンを描くことが必要です。

 

法の支配に資(し)する貢献

 ――EU(欧州連合)をはじめとする地域共同体、G7サミット(主要7カ国首脳会議)に代表される協議体が担ってきた秩序安定への貢献の仕方に、何か変化は生じますか。
  
 遠藤 欧州では、経済・民生・政治の統合を図るEUと、領土の防衛を担当するNATOの動きは、いずれも活発化しています。しかも、長らく中立だったフィンランドとスウェーデンがNATOに加盟申請をしています。EUは安定していますが、軍事的な統合を無理に進めれば、米国やNATOに依拠する域内の国々の反発を招き、統合より分裂に寄与しかねません。EUとNATOとの調和的な分業が復活することになるでしょう。
  
 また、ロシアの暴挙に対し、「西側」はいわば縮減(しゅくげん)された形で復活しましたが、意志をもつ核大国の侵略や殺戮(さつりく)を止めるのは難しい。日米同盟は堅固に維持される一方、日米豪印4カ国の協力枠組み「Quad(クアッド)」はまだ安定していません。米英豪3カ国の軍事同盟「AUKUS(オーカス)」は排他的な印象が強い。米国には自国への市場アクセスを制限する傾向も続きます。米国中心の政治・経済・軍事の連携がパッチワークのように映り、EU・NATOとは対照的です。
 インド太平洋地域、欧州などに広がる共同体、協議体などを連結させることが、今後の課題です。岸田首相は今月末、スペインで開催されるNATO首脳会議に出席します。日本の首相として初めてのことです。日本が国際協調に重要な役割を果たすことを期待します。
  
 ――日本の役割について、他には何がありますか。
  
 遠藤 ウクライナでは現在、国際刑事裁判所(ICC)がロシア軍や兵士などの戦争犯罪について捜査しています。公助の機能として極めて重要です。また、こうした動きが注目されると、民間人を殺戮・暴行すれば、訴追(そつい)対象になる可能性があるというメッセージを、ロシアの国民に送ることができます。これは、将来世代の戦争犯罪の抑止(よくし)につながりますが、犯罪の証拠集めや国際法に基づく訴追などには多大な労力と時間を要します。そこで、例えば日本から法医学や法律の専門家を派遣すれば、日本が国際秩序の維持に寄与するとともに、法の支配に資することにもなると考えます。

 

 〈プロフィル〉
 えんどう・けん 1966年、東京生まれ。専門は国際政治、EU研究。北海道大学を卒業後、欧州委員会(EU執行機関)の研究諮問機関「未来工房」専門調査員などを経て、オックスフォード大学で博士号を取得(政治学)。北海道大学大学院教授等を歴任し、現職。著書『統合の終焉』で「読売・吉野作造賞」を受賞。他に編著『シリーズ 日本の安全保障』(全8巻)、著書『欧州複合危機』など多数。

 

 〈取材メモ〉
 南アジア、アフリカ、南米の地域では、ロシアからの原油や軍用品に頼る国が少なくない。遠藤教授は「インド以外のグローバルサウス(途上国)の国々にも、西側諸国は対ロシア制裁の意義を浸透させる努力を重ねるべきです」と。

 

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